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Selfishly

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ACT 4「交差 1」


at the Truth in the Mirror Image

act4「交差 1」


H18,9/10 23:30


「社長、こちらの資料にもお目を通して頂けますか?」

忙殺される書類を必死で片付けていると、
音も無く入ってきた彼女にかけられた声に驚いて目を上げる。

「なっ・・・、いつの間に入って・・・。」

自分に呆然と呟かれている言葉を気にもせずに、
優秀な秘書は、落ち着いた態度で返事を返す。

「申し訳ございません。
 ノックをさせて頂いたのですがお返事が無かったので
 時間も押しておりますので、私の判断で入らせて頂きました。」

ロイは あきらめたように、深いため息をつく。
前任の社長から補佐をしている彼女は、
優秀なだけでなく、やや怖い存在だ。
職務に忠実なせいか、社長であるロイをも こきつかうフシがある。

財団のTOPに立って日が浅いロイには、欠かせない人材だが
ロイにとっては、自分の部下と言うよりは
厳しい教師のように感じられて、内心 ビクついてしまう。

気まずい自分の気持ちを隠すように、咳払いを1つすると

「で、また急ぎの書類かね?」

表面に浮かぶ 辟易した表情を隠しもせずに
彼女が持つ、分厚い茶封筒をちらりと見やる。

「はい。
 社長からのご指示の報告が参りましたので
 お持ちいたしました。」

すっと差し出された封筒と共にかけられた言葉に
今の今まで、うんざりだと思っていた感情が消え去り
まるで、ご褒美をもらう子供のように喜色満面名笑顔で
封筒を素早く手に取ると、封を切る時間も惜しいとばかりに
やや乱暴に開閉する。

それはロイに届けられる、エドワードよりの報告書だ。
ホークアイ秘書にも、エドワードからの報告書や連絡が届いた場合、
どんな緊急事態でも、優先してロイに知らせるようにと厳命していた。
リザも、その厳命に さして疑問も口を挟む事無く実行してくれており
余計な詮索をしてこない。
そういう点も、ロイが彼女を気に入っている1つでもある。
彼女の職務の仕方は、ロイが動きやすいようにとの配慮の上でであり、
時にロイには厳しい事も、結果として それでロイが楽になる為のものだ。
ロイ自身、その事が良くわかっているからこそ
彼女の厳しいノルマにも、音を上げずに答えている。

しばらく、報告書を読むことに没頭していると
いつの間にか出て行ったリザが、手にコーヒーを持って戻ってくる。

どうぞと声をかけて、ロイの気を削ぐ事のないように
机の端に静かに、音もさせずにカップを置く。

ロイは差し出されたコーヒーに口をつけながらも
読んでいる報告書から目を離さない。
時折、メモを取りながら最後まで真剣に報告書を読んでいる。
そんなロイの様子を見守りながら、
リザは 『この真剣さが、他の仕事の時にも発揮されれば・・・。』と
残念な気持ちを浮かべて眺める。

しばらくして、読み終えたのだろうロイが
閉じた書類を見つめて黙考し始める。
リザはそれに気づいて、はっと息をつめてロイを窺う。

ロイが定期的に届く この報告書を読んだ後に黙考する僅かな時間が
今後の会社を動かすプランが練られる時間だと言う事は
今までの経験で解っている。
この後の指示によって、自分達の行動も大きく変更する必要がある時や
果ては、ロイのスケジュールの変更まで必要になる事もあった。

ようやく考えがまとまったのか、ロイがフッーと息を吐き出すと
おもむろにリザを呼ぶ。

「ホークアイ秘書。」

「はい。」
静かに傍に寄り、指示を仰ごうと相手を見る。

「すまないが、このメモに書かれた物の分析を頼む。
 解り次第、私に連絡が欲しい。」

すっと差し出されたメモには、何やらリザにはわからない文字が並んでいる。

「後、彼らの現在の滞在場所はわかるな?
 出来れば連絡を取って、至急 私に連絡を寄越すように
 伝えてくれ。」

「わかりました。」

リザは すぐに返事を返して、仕事に取り掛かるために
部屋を出る為に、辞去の言葉をかける。
静かに扉を閉める時に、ロイの小さく呟かれた言葉が
耳をかする。

『全く・・・無茶ばかりして・・・。』

自分の上司と、報告書を送ってくる相手とが 
どういう関係なのかは知らされてはいない。
が、主が特別目にかけている人物である事には
ロイの様子からも察する事が出来た。
電話では何度かやり取りをした事がある相手は
エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックと言う。
ぶっきらぼうな口調の中にも相手への思いやりが感じられる兄のエドワードと
兄とは正反対なひとなつこい気さくな話し方をするアルフォンスという弟。
まだ逢った事もない二人ではあるが、リザの中では嫌な感じはしない二人だった。
というか、逢う時を少し楽しみにもしている。
『もしかしたら、近々逢えるのかも知れない・・・』
そんな予感を感じながら、ロイの指示に早急に答えるべく足を早めた。


「ええ~っ! すぐ戻れだってー。

 何でだよ、報告書はこの前送ったばかりだろ!」

電話の相手からの言葉に不満があったのか、
エドワードは、もともと大きめの声をさらに荒げて返事を返している。
周辺に人が居なかったから良かったようなものの、
居たら 傍で待つアルフォンスは 少々居た堪れない気分を味わった事だろう。

何か言い合っているようだが、まかなか決着がつかないようだ。
所在投げに立っているアルフォンスに、エドワードが怒ったような顔をして
受話器を差し出してくる。

「どうしたの?兄さん。」

「どうしたもこうしたも、ロイの奴がお前に替われだと。」

不承不承な表情を隠さないまでも受話器を差し出してくるのは
『命令』とでも、言われたのか。
アルフォンスは、内心 やれやれと思いながらも
素直に受話器を受け取る。

「はい、替わりました アルフォンスです。」

『やぁ、久しぶりだね。』

「はい、ご無沙汰しています。」

『兄共々元気そうで安心したよ。

 まぁ、君の兄は 少々元気過ぎる様だがね。』

苦虫を噛み潰したような声音に、アルフォンスはすみませんと苦笑で返す。

『で、この前戻ってからだいぶんと経っているな。
 ここらで、1度 戻って休養が必要な時期じゃないかね?

 前回の報告書を見ると、二人ともかなり頑張ってくれてるようだしね。
 書いて寄越さなかった分の話も、ぜひ 聞かせて欲しいね。

 チケットは送ったんで、後は宜しく頼むよ。』

「わかりました、兄さんに話しておきます。」

電話を切ると、ムスッとした表情で 
そっぽを向いているエドワードが目に入る。

「兄さん、1度戻った方が良さそうだよ。
 報告書で、解らなかったとこがあるんだってさ。」

穏便な言葉を選んで伝えてくるアルフォンスに
エドワードは、めんどくさそうに返事を返す。

「えっ~? そんな難しい事書いたかー?
 ちょっと調べればわかる事ばかりだろ?」

「まぁまぁ、兄さんにはわかっても
 専門外の人にはわかりにくいんじゃないかな?」

そう宥めて話すアルフォンスに、エドワードが嫌そうな顔をする。

「でも、ここらで1度戻るのは良い事だと思うよ。
 部屋も開けっぱなしにしているから
 1度、手入れしたほうがいいしさ。
 
 グレイシアさんのお手伝いも溜まってるかも知れないし。」

アルフォンスが、ニコニコと伝えてくる言葉に
エドワードも 、そう言われればそうかも知れないと思い直す。

「まぁ・・・、そうだな。
 前に帰った時から、今回はちょっと時間が経っちまったから
 グレイシアさんも、困ってるかもしれないしな。」

「そうだよ!
 やっぱり女性の人が一人だと、
 出来ない事もあるだろうしね。」

年上の女性に弱いエドワードを良く知っているアルフォンスは
ここぞとばかりに、頷いてやる。


「そう・・・だよな。
 
 よっしゃー、1度帰るか。」

「うん。

 あっ、なんかチケットは手配してくれたって言ってたよ。」

「ふ~ん、気が利いてるな。

 でも、どうやって渡す気だ?」

「さぁ・・・、郵便ででも送ってくるんじゃないの?」
 
そう言えば、受け取りの事までは聞いてない。
無難に 郵便か何かで来るのだろう。

「そうだな。
 んじゃ、すぐ経てる様に 準備しといた方がいいな。」

「うん。」

そう二人が、頷きあっている時に 玄関の呼び鈴が鳴る。

「誰だろう?」

「さぁ?」

この部屋に訪ねて来るような人間が居ただろうか?と
頭を捻りながら、続けて鳴らされている呼び鈴に答えるために
二人揃って部屋の扉を開けるために歩いていく。

覗き窓から映された人物には、二人とも覚えがない。
が、きちんと背広を着て 礼儀正しそうに直立不動で経っている姿は
怪しい人物とも思えずに、二人は 用心しながらも扉を開いた。

「あっ、始めまして!
 シュミット財団の海外支社におります.
カール・ハイムと申します。
 
 社長のご指示でお迎えに上がりました。
 もう、ご準備は御済ですか?」

ニコニコと、人好きのする笑顔を浮かべながら
優しそうな青年は、二人に声をかけてくる。

「はっ? 迎え? 準備・・・・って、まさか?」

驚く二人の兄弟の様子にも、戸惑う事無く
再度、言葉を告げてくる。

「はい。
 本社に急ぎお帰りとの事ですので、
 こちらで、専用機のご用意をしてお迎えに参りました。

 ただ、出発時刻まで 余り時間がありませんので
 少々、お急ぎ頂いた方がありがたいのですが。」

急いでいる割には、のんびりとした雰囲気を崩さないこの青年は
見た目より 喰えない人物なのかも知れない。

そんな事を 兄弟二人で 思いながら、出発の時間を聞いてみる。

「あ、あぁ・・・、あの わざわざありがとう。
 で、時間がないって、出発は何時なんだ?」

「はい、後2時間後の11時です。
 あっ、でも、空港まで 1時間半程かかりますので
 お急ぎ下さい。」

「ええ~!!
 って、何で もっと早く迎えに来ないんだよー!。」

慌てて部屋に戻る二人について、
のんびりと中に入って話し続けるカールと言う青年は
二人の不満にも、別段怒るでもなく、少々済まなそうに謝ってくる。

「申し訳ございません。
 もっと早くお迎えに着たいのはやまやまだったんですが、
 社長の厳命で、このお時間と言う指定があったものですから。」

「あいつ~!!」
怒りながらも、荷物をトランクに突っ込んでいくエドワードを横目で見ながら
アルフォンスは、ハァーと兄にはわからぬようにため息をつく。

『多分 ロイさん。
 兄さんが 迷う時間を与えないようにしたんだろうけど、
 巻き込まれる僕の身になって欲しいよなー』

「あっ、出来たお荷物から 車に運び込みますんで。」

「そんなに、荷物なんかないよ。
 ってか、アル 宿代払いにいかなきゃ!」

「あっそうだね!
 じゃあ僕先に・・・。」
返事をしながら、入り口に足を向けようとしたアルフォンスに
カールは 落ち着いた様子で声をかける。

「あっ、大丈夫ですよ。
 私が来る前に済ませておきましたから。」

『それを先に言え!』と思わなくもないが
気を配ってくれた人に対して申し訳ないかと
ありがとうございます。と礼を伝える。

「いいえ、ご指示頂いた事ですから。
 あっ、でも そろそろ出ないと・・・。
 結構、道路も込みますからねー。」

『それも、先に言え!』と兄弟で2重の突込みを入れながら
トランクに詰め切れなかった物は、手に抱えて部屋を出る。

温厚そうな様子とは違い、荒い運転で さらに兄弟のド肝を抜きながら
何とか時間に間に合わせて、空港・・・・基地に着く。

「えっ! ここって・・・。」

おそるおそるカールを窺ってみると、
慣れた様子で、物々しそうなゲートでの手続きも
談笑しながら行っている。

「あっ、申し送れましたが
 私、 軍との折衝担当の係りをさせて頂いております。
 
 さぁ、準備は万全のようですから
 お二人も どうぞ。」

どうぞ・・・と言われて軍用機の前に連れてこられても・・・。
引きつる笑いを浮かべながら、
厳重なお見送りの軍人が敬礼する中、
エドワード達は、タラップに足をかけて 上がっていく。
機体に入る間際に、カール青年を見下ろすと、
親指を立てて拳を作り、にこやかに二人を激励している・・・ように見えた。
二人は力なく手を振り返し、未知との遭遇を体験する覚悟で
軍用機に乗せられ、本国へと戻っていった。

列車で乗り継いで何日もかかった距離も、
空から戻れば 数時間とかからない。
文明の機幾とは便利な物だ。
それを身に染みて体験できた二人は、
戻ってきた時には、心労でよれよれになっていた。





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